諸行無常

楽器、機材、音楽など、のんびり綴っていくゆるいブログ

PRS SE Mark Holcomb

「PRS SE Mark Holcomb」は、わたくし所有のお気に入りの1本です。2015年に「PRS Mark Holcomb Limited Edition」として発売されたモデルのSEバージョンで、その名の通りPeripheryのマーク・ホルコム氏のシグネイチャーモデルですね。SEではあるけど同じピックアップを搭載するなど基本仕様はリミテッドエディションのものをほぼ踏襲していて、廉価版としては良い感じなんじゃないかなと。

正直に言うと、特にPeripheryやホルコム氏の大ファンというわけでもPRSが特に好きなわけでもないんですが、コレを購入した理由はこのモデルの仕様がめちゃ自分好みだったから。ネック・指板・ボディ材の組み合わせ、セットネック、25.5インチロングスケール、20インチ(508R)の指板R、ジャンボフレット、裏通しのフィクスドブリッジ、S.DuncanのモダンなAlphaとOmegaピックアップの組み合わせ…などなどほぼすべての要素が以前から欲しいと思っていた仕様になっていて、これは買うしかないなと。

2016年発売当時の定価が約15万円、実売価格が約10万円で、今の自分にはけして安い買い物ではなかったけど、買えない値段でもないので発売直後にお買い上げ。家に持ち帰り弾いてみたらやっぱめちゃ良くてすぐ気に入りまして。音はクリアで輪郭感があって芯がちゃんとある感じ?一音一音がしっかり響くような。硬質なエボニー指板とボディトップのメイプル、それとあのブリッジの恩恵かなと。

それとネックシェイプが絶妙というか、弾きやすさと音質を両立するよく考えられた形状だなあと。ネック幅はやや幅広で緩めの指板Rにジャンボフレットで、以前所有していたIbanez(型番失念、マホガニーボディにフィクスドブリッジのモデル)のネック形状に似てるところがあるんだけど、全体的にもう少し厚みがある感じ。

Ibanezのネックは自分の好みに合っていて気に入っていたんだけど、薄いネックが原因と思われるカリカリした線の細い音がちょっと不満で。このMark Holcombのネック形状はIbanezとの共通点も感じるんだけど、弾きやすさを犠牲にしない範囲内で厚みを持たせて、その辺りを上手く回避してるなと思いました。

それと個人的に一番驚いたのがピックアップの性能。これまでダンカンやディマジオのいくつかのピックアップを試してきたけど、このAlphaとOmegaは別格と言っても言い過ぎじゃないクオリティを備えているなと。クリアで解像度が高く、高音の伸びもいい。また硬すぎず柔らかすぎず、音の質感のバランスも良好ではないかと。

ブリッジ側のOmegaはもちろん、ネック側のAlphaも24フレットということもあるでしょうが、シングルコイル並みにクリアで音が必要以上にくぐもらない。個人的にフロントのハムバッカーの音ってもっさりしてる感じがしてあまり好きじゃなかったんだけど、これは良いというか、Alpha/Omega共に非常にモダンな感じがします。

解像度の高さに加えて低域の再生能力も高く、6弦をドロップさせても違和感が少ないです。以前はドロップさせると6弦だけ音の質感が他の弦と違い過ぎて違和感があったけど、このギターはそれがない。現在チューニングをドロップDにしていますが、元々ドロップCで使うことを前提にしているからかその程度は朝飯前って感じですかね。

とこんな感じでかなり気に入ったんだけど、それからしばらく日が過ぎて唯一気に入らないところが出てきて。ボディカラーが「ホルコムバースト」なる独特の色なんだけど、これがなんとも微妙と言うかね...照明が暗めの場所で見るといい感じなんだけど(こんな感じ)、

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prs mark holcomb

白っぽいLEDの照明や、昼間の明るいときなどに見ると真ん中の色が薄い部分がまるで墨汁を水で薄めたような色というか…と同時にトップのキルトメイプルの杢目がかなり目立ち、これがまたあまりよろしくない杢目で。

そこで、せっかく理想に近いギターが手に入ったんだからこの際見ためも自分好みにしてやろうと思い、リフィニッシュを考えました。それからリペアショップを探したんだけど、たくさんあって正直どこが良いかさっぱりわからない。レビューなどを読んでも、たいてい賛否両論でどれを信じればいいのか…あと、リフィニッシュってけっこう値段がかかるんですね。

で、某工房のサイトでトップのみの場合2万5千円でできると書かれていて、このギターはサイドとバックは元から黒なのでトップだけ黒にすればいけるじゃんと思い、その工房に持ち込み作業を依頼。2ヵ月ほど待って完了したと連絡が来たので取りに行き、その場でパッと見て「お、いいじゃん」と足早に家に帰り、よく見て見ると…

なんだかおかしい。まず色が微妙。黒は黒なんだけど、グレーが混じったような色で真っ黒じゃない。しかもなぜかサイドとバックも同じ色に塗られている…そして音を出してみると、購入当初とは違う、嫌なコモリ方をした音に変わってる…。

配線がおかしいのか?と思いバックパネルを空けて愕然。なんだこの雑な作業は…中はおそらくバフがけの際に出たであろう白い粉だらけ、ハンダ付けも雑。頭の中が怒りと悲しさでいっぱいになりましたよ。こんな適当な仕事をする店に再度依頼する気にもなれず、別の工房を探すことに。

そして良さげなお店を見つけ、まずはメールで相談。こちらの話をしっかり聞いてくれて、その上で「やはり実物を見るのが一番」ということでそのお店に持って行きました。とても丁寧に対応してくれて、まずこの色は「エナメルブラック」という色で、一般的な真っ黒い「ブラック」よりも塗料の値段が安いため、使われたのではないかということ。

そして音が変わってしまった理由は、元の塗装を剥がさず上から吹き付けたために塗膜の層が厚くなり過ぎてるためではないかと(トップだけでなくボディ全面なので当然ですな)。また、その方が言うには塗面が妙に柔らかくカッチリしてない。ちょっと爪で擦ると簡単に傷が付くと。ポリ塗装は2液を混合させて吹き付けるんだけど、その混合のバランスが悪かったのだろうと。その柔らかさも抜けの悪さの一因のようでした。

サイドとバックまで塗られたのは、トップだけエナメルブラックでは一目で「おかしい」とバレるので、全部塗ってしまったのではないかと...早い話、最初に持っていく店を間違えてしまったってことですね。思いっきりハズレを引いてしまったわけです。

ルックス、サウンド両面を改善するには、元の塗装を含めすべて剥離した上で塗装し直すこと…本来のリフィニッシュとはそういうものなんですね。お値段は8万5千円…もう1本買えるじゃないか…しかしこのままではこのギターを買った意味がないじゃないですか。もうやるしかないよね。

元の塗装とその上から塗られた塗装、二重の塗装を剥離するのは手間のかかるものだそうで「時間をください」と言われ、頷くしかなく...

それから約半年、首を長ーくして待ち、ようやく作業終了したとのことで久しぶりにそのお店に行きました。久しぶりのご対面。おお、めちゃキレイ!希望どおりのこれぞブラック。音抜けと塗面の丈夫さを両立するため現在のPRSやタイラーなどで採用されているものに近い極薄のポリウレタン塗装を使用したとのこと。本当言うと当初はラッカー塗装をすすめられたんだけど、いやポリでお願いしますと...。ラッカーと違ってポリは保存がきかないので、小さな工房では正直あまりやりたくないんだろうな、と思いつつ、ここは譲れないポイントだったので...。

また、この際なのでポット・セレクタースイッチ・アウトプットジャック・配線材など、電装系もすべて交換してもらいました。

それから自宅に戻り音を出してみると...おー、復活してるじゃないですか!最初のクリアな響きが戻ってる。嬉しかったな、マジで。よく見るとちょっと粗も見つかったけど、まあしょうがない。実はその後ちょっと「これはマズいな」という点がみつかったので、再度お店に持ち込んで修正していただきました。ともかく当初の希望がやっと叶ったわけだけど、なかなか痛い出費でしたね…もう1本買えるじゃん!って話ですよ…

バカだなあ、と言われたら返す言葉もない高い勉強代でしたわ。楽器のリペアを依頼する際はお店をしっかり吟味しないと痛い目見る...。でも実際やってもらわないとなかなかわからないのも事実で…難しいですね。

なにはともあれ、ブラックのMark Holcombなんてたぶん他にないだろうし、満足はしています。二度とやりたくないけど!

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